祝 聖クレメンス・マリア・ホフバウアーの記念日

『樫の木の人』レデンプトール会刊(\1,400.-)より

23 陰謀(p358~)
 自由思想家たちは激怒に身をふるわし、ウィーンの秘密結社集会所ではクレメンス・マリア・ホフバウアーの失脚を計る陰謀が誓いの下に進められていた。
 又、聖ウルスラの指導司祭の活動を疑惑と不信の眼で見守っている司祭たちもいたことはもちろんである。かれらは大学やジェネラル・ゼミナーで啓蒙主義化されたカトリシズムを教え込まれてきたのだ。そして当然司祭として自分たちの論理的で浄化されたキリスト教を擁護する為に戦っていた。だが結局は、人々を教会から遠ざけたばかりでなく自分たちの心までも空虚で冷酷なものとしてしまい、それは理性主義に譲歩してキリストの教えを変形した為であることを認めようとはしなかった。
 これに反し、ホフバウアーはだれはばかることなくカトリックの信仰を全面的に宣べ、免償、地獄の永遠性、聖人の崇敬を説き、他の聖職者たちがウィーンの説教壇では極力触れないように気遣っているなお多くの事柄について話した。この為、厳しい非難の声が起こった。さらにホフバウアーは当時の説教者のやり方とは違って、庶民の日常用語をふんだんに使用したのもこの司祭たちの神経をいら立たせた。又かれが行う信心業、巡礼、行列などにもかれらは眉をひそめた。
 だが大学ではホフバウアーの考え方をよしとする学生がふえ、ヨゼフ主義の老教授たちに対し異議を申し立て、教室でごたごたを起こすのも珍しいことではなかった。
 ホフバウアーに最も強硬に反対する大立者は、ウィーン大学哲学部の副部長で司教座参事会員でもあるグルーパーであった。この聖ステファノ教会の参事会員はホフバウアーの影響をくい止めるあらゆる方法を探求するよう関係者に命令し、誤った熱心故にしばしば不正な手段に頼っていた。…

11 嵐 (p160~)
…マリア・ホフバウアー夫人もタスウィッツの家で床についていた。枕にもたれているその顔は青白く、多くの子供を世に送り出したこの母の命はまさに燃え尽きようとするローソクの様であった。
 きいっと戸があき、バーバラが入って来た。…
 「バーバラ、ねえ、バーバラ。」
母はささやく様に、歌う様に言った。
 「なに?お母さん?」
 「あの手紙、ねえ、バーバラ、あの手紙をもう一度読んでおくれ。」
 「だって、お母さん、今朝からもう三回も読みましたよ。どうして、しばらくでもいいから休めないの?」
 「バーバラ、ねえ、すまないけれどもう一度だけ読んでちょうだい。」
 娘は、小さな祭壇の聖母像にもたれさせてあった大きな封筒をとり上げた。その朝早く村の郵便配達夫がズノイモから運んできてくれたものである。だがずっと遠くはるかかなたのイタリアから届いたので二週間もかかり、油じみ、汚くなっていた。昔なじみの配達夫は、この汚れは自分の家のえんとつ掃除用のほうきのせいではないと幾度も断って帰って行った。…
 「ゆっくり、もう一度よんでちょうだいな、バーバラ。」
 「じゃ、お母さん、読みますよ。」
 朝から四度目の朗読が始まり、母親は一句一句娘のあとを追って繰り返す。母にとってはその一言一句が、今朝司祭が拝領させてくれた聖体と同じく甘美なものに思われた。
 「お母さん、昨日、あなたの息子は司祭になりました。今朝、初めてごミサを捧げました。カリスを持つ手はぶるぶるふるえましたし、白いホスティアが手からすべり落ちないかと心配でした。このホスティアを昨日自分で焼きました。また、ぶどう酒は、初ミサのためにお母さんがイタリアまで送ってくださったあの小さなびんのを使いました。」
 「バーバラ。」母親は口をはさむ。
 「うちのふどう園のですよ。考えてごらん、わたしの摘んだぶどうの実が御血になったんですよ!マリアさまの小さなほこらの近くにある、ほら、あの一番上等なぶどうの実ね、わたしがしぼって作ったぶどう酒が、ハンスの、いいえ、クレメンス神父の口にする一言で、キリストさまの御血になったんですよ。ねえ、おまえ、考えられないじゃないの…本当に…」
 「そう。でもお母さん、そのことみんな今朝言ったじゃないの… まあ、いいから、残りを聞いてちょうだい。」
 
「本当にお母さん、聖変化って何と美しいことでしょう。この固所にくるともう地上になどいません。高く天国にあげられています。この地上の、パンとかぶどう酒とか、ごくありきたりのものをとり、それを神ご自身の御体と御血に変化できるその時、人はもう神に属しています。もうこれから後は以前と同じではありえません! わたしの前の白い聖体布の上にホスティアが置かれ、それを手にとる時、わたしはタスウィッツの教会墓地に憩っていらっしゃるパパの事を考えました。そして聖変化の前、初めてご聖体を奉挙した時、お母さん、あなたの事を考えました。何かいつもと違っているとお感じになりませんでしたか?」
「ええ、ハンス、違ってるって感じましたよ、とてもとてもはっきり感じました。あの日以来、毎朝この感じが新たにします。ハンスは今ごミサを捧げているってね。」…