聖ベルナルド著『聖母の歌手』より

第一章 受胎告知 p137~140
〔なぜ、天使はエリザベトの事例を持ち出すのか〕

…次に天使はマリアに、こう言い添えます。「ごらんなさい。あなたの親類のエリザベトも、あの年になって男の子を身ごもっています。産まず女と呼ばれていたのに、今はもう六ヶ月です」(ルカ1・36)
どうして天使はマリアに、老女の身ごもりを告げ知らせる必要があったのでしょうか。マリアが、御言葉の受肉に対して、疑惑の念と不信感を抱いていたからなのでしょうか。だから、老女の懐妊という最近のトピック・ニュース、最新の奇跡的事件の威力を借りて、マリアを安心させたかったのでしょうか。いいえ、絶対にそうではなかったのです。ザカリアの不信感が、ガブリエル自身からひどく罰されたことは、福音書にも出ています。しかし、天使がマリアに、そのようなお叱りの言葉を言ったという記事は、福音書のどこにも出ていません。事実は全く反対です。マリアの信仰は、エリザベトの称賛を勝ち得たのではありませんか。エリザベトは聖霊に満たされ、預言してマリアにこう言ったのです。「マリアよ、信じたあなたは幸いです。なぜなら、主によって語られたことは必ず実現するからです」(ルカ1・45)
親類のエリザベトの懐妊について、天使がおとめマリアに告げ知らせたのも同じ目的のためなのです。すなわち、奇跡が増すところに、喜びもいや増して欲しいためなのです。喜びと愛の炎が、この瞬間から、マリアの身も心も、神愛の炎で焼き尽くされねばならないのです。まもなくマリアは、父の最愛の独り子を、聖霊歓喜のうちに身ごもろうとしているからです。果てしない愛と限りない幸福に残りくまなく浸透されている霊魂だけが、神のこのような慈しみと幸福に酔いしれることができるのです。
なぜ、エリザベトの懐妊が、マリアに知らされるのでしょうか。まもなく世間に報道されようとしているこのトピック・ニュースが、人々の口から耳に入る前、マリアは直接、天使から知らされるためなのです。神の母が、御独り子の救いの計画から除外されてはいけないからです。もしも彼女の周辺で展開されている救世の諸事件に関して、マリアに知らされていないなら、彼女は完全に救いの計画から除外されていることになるのです。
もう一度、言わせていただきたい。なぜ、エリザベトの懐妊が、マリアに知らされるのでしょうか。そのもう一つの理由がここにあります。すなわち、天使の告知によって、マリアは、救世主の地上来臨も、先駆者の登場も同時に知ることができます。両者の誕生の時期も、順序も、情況も知ることができます。あとでその真相を、他の人よりも一層正確に、使徒たちや福音記者に伝えることができます。神ご自身の計らいによって、救世事業のすべての神秘に、最初から、全面的に取り組むことができるからです。
最後に、もう一度、言わせていただきたい。なぜ、エリザベトの懐妊が、マリアに告げ知らされるのでしょうか。それは、すでに年老いているいとこのエリザベトが懐妊していることを知れば、年若なマリアは黙っているわけにはまいりません。出産の前後に、何くれとなくエリザベトの世話をするため、急いで彼女を訪問せねばならぬと考えます。訪問することによって、まだエリザベトの胎内にいる小さなヨハネに、自分よりもっと小さな救世主に表敬の初物をささげるチャンスを提供することができます。二人の聖なる母親たちが出会いを果たしている間に、彼女らの胎内にそれぞれ宿っている二人の子供たちが、互いに相手の臨場を意識し、確認し合います。こうして最初の奇跡が、もっと素晴らしい第二の奇跡を呼び起こすことになるのです。

聖ベルナルド著『聖母の歌手』山下房三郎訳(あかし書房)から